今度は見過ぎだよ、と言いたくなった。階段下を通過していった六組目の女性使用人が、何事なんですかソレ、と言わんばかりに二度見してきたのが見えて、この状況が心底嫌になった。

「……あのですね。僕の横顔を見ても、何も面白い事はないですよ、宵月さん」
「よくお気付きになられましたね」
「真横からガン見されていたら、誰でも気付くわ。というか、言っているそばから近づけてくるな」
「白髪でもお探してあげようと思いまして」
「どんだけ暇してんですか」

 雪弥は、少し尻の位置を横にずらしてから、宵月を見つめ返した。真顔のままでいる彼が目に留まって、思わず口から溜息がこぼれ落ちた。

「宵月さん、昔からずっと忠犬のごとく張りついているのに、兄さんのところに行かなくてもいいんですか? あんた、あの人の執事でしょう」
「必要とされていれば、気配で探知出来ます。あの方は今、わたくしを必要としておりません。それに、引き続きあなたのそばにいて監視せよ、というご意思を魂で感じ――」
「そうですか」

 雪弥は、続く宵月の台詞を遮って、強制的に会話を終わらせた。