「そうなのですよ。本家のご長女様でもあらせられるわけですし」

 桃宮家の本家長女である紗江子が、優しく夫の言葉を補足して続けた。

「蒼緋蔵家の女性が『本家の役職』に就くとすれば、曾お爺様の代以来でございましょう? 蒼緋蔵家は、日本で三本の指に入るほどの大家ですから、皆様方は常に注目なさっているのですわ」

 そう世間話のように口にした紗江子が、ティーカップをテーブルに戻して、そこで穏やかな表情を真っ直ぐ蒼慶へと向けた。

「真相のほどは、いががですの?」

 ふっくらとした顔に浮かぶ皺を、柔らかに深めて面白そうに尋ねる。

 それについては、先日に一族内で話し合われたばかりで、まだ公表されていない詳細部分だ。亜希子は、申し訳なさそうに肩をすくめた。しかし、彼女が口を開くよりも早く、蒼慶が唐突にこう断言していた。

「うちの会社に呼び戻したのは、婚姻関係の類では一切ない。緋菜には、秘書の『役職』を与える」

 亜希子がガバリと目を向けて、ちょっと言わないはずなんじゃないの、と目で伝えた。動揺する母に対して、蒼慶は冷静な様子でチラリと横目を返しただけだった。