久々の来訪で緊張しているのか、笑ってそう話した桃宮が「失礼」と言って一旦言葉を切り、再び顔に浮かんだ汗をハンカチで拭った。隣に座っている婦人は、それを茶化しもせずゆっくりと紅茶を手に取る。
蒼慶が、話す亜希子と桃宮の向こうに、そんな紗江子の様子を見つめていた。妻に急かされたわけでもないのに、桃宮が少し急いたようにハンカチをしまって、喉仏を上下させて小さく唇を開く様子も、しっかり目に留めていた。
「その…………もう一つ、お噂があるとすれば。次期当主就任に合わせて、緋菜様にも『役職』が与えられるのではないか、という事です」
しどろもどろに桃宮が言った。そこではじめて、蒼慶の顔に怪訝そうな表情が浮ぶ。彼の様子をチラリと確認した桃宮が、途端に困ったような顔で微笑んだ。
「ただの噂ですよ。失言でしたら非を詫びます。あの、その、緋菜様は聡明で美しく、将来をとても期待されている優秀なお嬢様です。それくらいの事も起こりえるのではないか、と、みな噂しているのですよ」
蒼慶が、話す亜希子と桃宮の向こうに、そんな紗江子の様子を見つめていた。妻に急かされたわけでもないのに、桃宮が少し急いたようにハンカチをしまって、喉仏を上下させて小さく唇を開く様子も、しっかり目に留めていた。
「その…………もう一つ、お噂があるとすれば。次期当主就任に合わせて、緋菜様にも『役職』が与えられるのではないか、という事です」
しどろもどろに桃宮が言った。そこではじめて、蒼慶の顔に怪訝そうな表情が浮ぶ。彼の様子をチラリと確認した桃宮が、途端に困ったような顔で微笑んだ。
「ただの噂ですよ。失言でしたら非を詫びます。あの、その、緋菜様は聡明で美しく、将来をとても期待されている優秀なお嬢様です。それくらいの事も起こりえるのではないか、と、みな噂しているのですよ」