桃宮が視線をテラスへと向けたので、座っている蒼慶達もそちらへと目をやった。そこには、向こうまで広がる美しい庭園を眺めている緋菜とアリスがおり、二人は女の子同士での談笑を続けていた。

「また一段と、美しいお嬢さんになられましたわねぇ」

 紗江子が微笑む。亜希子もつられて微笑むと、幸福な母親の表情で頷いた。

「大学を卒業して一年ほど、社会勉強だと言って、あの子が別企業の社長秘書をしていた時は、もう冷や冷やものでしたわ」
「ふふふ、そうなりますでしょうね。殿方達は、放ってはおかないと思いますわ。今年の春先から、彼女は蒼緋蔵家の会社に籍を置いていると伺っておりますけれど、これからは本格的に花嫁修業でも?」
「そんなんじゃありませんわ」

 すぐに亜希子が、可笑しそうに言った。顔を上げた蒼慶が「あれに花嫁修行は早い」とすかさず告げたそばから、紗江子が微笑んで「やはりお兄様ですわねぇ」と言う。彼は眉を寄せただけで何も答えず、視線をそらして腕を組んだ。