「とはいえ、ざっと目測するに五メートルほどしかありません。スタート地点は中途半端でございますし、推理がし難い状況です」

 引きずられたような跡には、所々乾燥していない小さな血痕も残されていた。雪弥が「ふむ」と訝しむそばで、再び宵月が膝を折って仔馬の様子を確認する。

「首の骨が折れていますね」
「だから僕は言ったじゃないですか、殺されているって」

 仔馬の首には、見落としてしまいそうな薄い締め跡が残っている事を、雪弥は先程確認していた。触れてみると骨や組織は壊れており、かなりの力で食い込んだのが分かる。

 不意に、ざわり、と雪弥の中の得体の知れない何かが揺らめいた。するべき事を、と血に流れる遠い記憶の彼方から問いかけるような、理解しがたい感情の波が胸の片隅で蠢いた気がして、不思議に思って自分の胸元に触れる。

「蒼慶様のもとへ戻りましょう」

 立ち上がった宵月が、そう告げた。