こんなところでぼんやりとするなんて、集中力が少し足りなくなっているらしい。エージェントとして、ようやく出来た休日で気がゆるんでいるせいなのか。

 そういえば、アメリカの特殊機関に勤めていた時、このような死体を見るのも珍しくはなかったな。

 雪弥は、ふっと思い出して記憶を手繰り寄せた。あれは時間が経ったものだったが、数時間で、身体中の水分を人為的に蒸発させられた人間の死体だった。もしかしたら共通点はないだろうかと思って、目の前の仔馬のソレと比べてみる。

「……これは違う気がするなぁ。なんというか、うーん」

 独り言のように、雪弥は思案をこぼす。その声色は、穏やかさを取り戻して高くなっていた。

 先程と違うのんびりとした表情が、微塵の緊張感もなく足元に転がる死骸に向けられている。宵月は、また吹き始めた柔らかい風が、日差しに透き通る彼の蒼とも灰色とつかない髪を、小さく揺らす様子を静かに見守っていた。