雪弥は膝を折り、死骸の様子を一つ一つチェックしていた。気になる部位に触れながら、その死骸の上を滑る静かな瞳が、その瞳孔にゆらゆらと淡いブルーの線を描いて殺気を浮かび上がらせる。その耳は、離れていく馬の足音を聞いていた。

 不意に、彼の口元に嘲笑うような笑みが浮かんだ。

「宵月、この仔馬は『殺されて』いる。そんなに時間は経っていない」

 形のいい雪弥の唇から、低く問い掛ける声が上がった。辺りに響いていた鳥の声が遠のき、風がピタリとやんで、草葉の囁きも異様なほどひっそりとする。

 普段と打って変わった堅苦しい口調だ。肌をチリチリと刺す緊張感が、一瞬にして場を支配していた。けれど宵月は、眉一つ動かさずに振り返ると、彼の華奢な背中を見下ろして答える。

「はい、わたくしもそう推測しております。体液は蒸発させられたのでしょうか?」
「違うだろうな。恐らくは、『原始的に吸い取られて』いる」

 雪弥は、思案の言葉をこぼしながら、知らず嘲笑とも嫌悪ともとれない様子で目を細めていた。その瞳孔の周りを、不思議な色合いの光が鈍く揺れ動く中、観察もしまいだと伝えるようにして立ち上がる。