「それに宵月様、小屋から脱走というのも珍しいですが、ウチの馬が敷地内で襲われた事は今までありませんでした。森の獣は、高い塀に阻まれて入って来られませんし、大型の野鳥だとしても、この死に方は――」
「一つの原因で、こうなったと考えるから不気味に見えるのでしょう。いいですか、当時の状況や環境によっても死骸の様子に変化は出ます。死後にこうなった可能性もありますから、死因については、こちらで調べておきます。仔馬の事は残念ですが、あまり自分たちを責めない事です」

 含む眼差しを受けて、高齢の男が「それもそうですね」と、自身より年下の仲間達に戻る事を促した。彼らは納得し難いような表情を浮かべたものの、宵月の説明を少し考えたのか、それもそうだなというように緊張を少し解いて、乗って来た馬に跨って引き返し始める。

 綱をゆるめた自分のせいだとする第一発見者の若い男が、肩を震わせて泣き出した。同じ年頃の仲間に気遣われて連れられながらも、彼はずっと仔馬の事を嘆いていた。自分がここに務めて初めて、出産に立ちあった馬だったのに、と。