気味の悪さを煽られたのか、男達が小さくざわめいた。それを聞いた宵月が、立ち上がって彼らを振り返ると、話題の矛先をそらすように現実的な事を淡々と尋ねる。

「この子を繋いでいた綱は?」
「えっと、それが……」

 先程、一番に報告をした若い男性使用人が、言葉を濁して気遣うような視線を向ける。そこにいたのは第一発見者である男で、彼は顔を後悔にくしゃりと歪めて答えた。

「こんな事になるなんて、思っていなかったんです。ただ、まだ小さいやつだったから、ほんの少し紐を緩くしてやっただけなんです。まさか、それが逃げ出すきっかけになるだなんて……」
「落ち着け、渡辺」

 高齢の男が、自身の責任だと感じて真っ青になっている若者の台詞を、ぴしゃりと遮った。

「あれくらいの仔馬だったら、わしらだってやっとる。でも状況からして、たったそれだけで綱がキレイに外れるとは思えない。噛んだような跡もなかっただろう」

 そこで彼が、不安そうに、宵月へ指示を仰ぐ眼差しを向けた。