「水分がない。血の一滴も残っていないみたいだ」


 雪弥が冷静にそう呟いた。膝を折った宵月の後ろから、例の仔馬の死骸を覗き込むその表情には、ショックの一つさえも見られないでいる。異臭の発生源が分かって、仔馬が死んだのか、と一旦頭の整理がついてせいでもあった。

 仔馬は水気のない干物のようだった。開いた口の中では舌も干からびて、薄くなった歯茎からは、歯が剥き出しになっている。触れてみると、死骸にはまだ温もりが残っており、見た目の印象を裏切らず皮膚は水分を失って硬くなっている。

 表情一つ変えず観察し、しげしげと死骸にも触れ出した雪弥を、使用人達が息を呑んで見守った。そのそばで宵月が同じように確認し始めた時、一番年長者である男が、我に返ったように「雪弥様ッ」と呼んだ。

「あなた様が、そんな事をなされる必要はないのです。これは私共で――」
「少し静かにしてもらえないかな」

 雪弥は、振り返りもせずぴしゃりと言った。