そんな一風変わった経緯を持っている彼は、生活に困らなければいい、と四番目の席に就任にしても何も望まななかった。通常、一桁ナンバーの人間は、表社会でも高い権力と地位を好きに与えられるにも拘わらず、である。

 ナンバー1は、彼に対して仕方なく、渋々、いや苦渋の末に――決定するまでの間「チクショー、せめて他になかったのか……ッ」と何度も頭を抱えていた――異例となる『普通のサラリーマン』としての偽装身分証を発行した。

 幸いにして多忙のため、一般の会社に足を運んだ事はない。むしろ、そうなりそうになったら全力で止める。他の上位エージェント達の意見は、『彼を民間人の中に放り込むのは、ちょっと危険なんじゃないかな……』と全員一致していた。

  
 ナンバー4。付けられた異名は『碧眼の殺戮者』。

 彼は、本名を蒼緋蔵雪弥といった。仕事では冷酷なエージェントとして知られているが、普段の彼からはそれを微塵も感じる事がないくらい、平凡で穏やかな気性の持ち主である。


 総本部内では話題の絶えない彼の噂話に、学園であった犯罪組織の一掃が、数日前から新たな話題として加わっていた。主に彼らをざわつかせているのは、二十四歳にして『誰にもバレないまま高校三年生として過ごした』事である。

 当の雪弥は、そんな話題が総本部の建物内で飛び交っている事も知らなかった。門扉を出たところで、のんびりと爽やかな休日の空を仰いでいた。

「いい天気だなぁ」

 一、二台の車が通り過ぎるばかりで、通行人はそこから先に見える市役所と水道局が立ち並ぶ大通りを、ちらほらと歩いているばかりだ。おかげで、平日とは違う穏やかな空気であると感じて、つい呑気な笑みまで浮かぶ。

 本日は、六月三十一日の土曜日だ。

 雪弥は、この日になって、ようやく休みを取れていた。土曜日という事もあって、学校や公共機関や一部の会社は休みのため、朝の八時を過ぎているにも関わらず、人通りは寂しい。