その中にいた二十代前半の男が、こちらに気付いて「宵月様」と駆け寄って来た。宵月が後ろにいる雪弥をちらりと見やってから、男へと視線を戻して抑揚なく問う。

「一体何事ですか?」
「それが、紐でつないでいたはずの小さな馬が、どこにも見当たらないのです」

 馬の世話係らしき若い男は、急くような口調でそう報告した。集まっていた男達の年齢は、二十代が二人、三十代が三人、六十代が一人いたが、どちらも作業服に身を包んでいる。

 報告を受けた宵月が、キリリとした眉をそっと顰める。すると、この中で一番の責任者らしき高齢の男が、黒い顔に刻まれた皺を、弱ったようにくしゃりとした。

「自分から柵を超えたり、戸を開けたりといった器用な事が出来る年齢の馬ではありません。しかし、柵は降りたままだというのに、馬小屋の戸だけが開いてしまっておりました。私達が駆け付けた時には、他の大人の馬達もとても興奮している状態で」