◆◆◆

 妹の緋菜と別れた雪弥は、一階に集っている家族や客人から離れるように階段を上がると、行くあてもなく廊下を歩き出した。昔使っていた部屋へ行くようにして右折したところで、ようやく歩む速度を落として、ふぅっと息を吐く。

 あの子、少し苦手なタイプだなぁ……。

 綺麗だとか妖精さんだとか、よく分からない。そもそも自分の顔は、美麗な兄や妹と違って平凡なのだけれど、と、そう桃宮家の令嬢アリスを思い返したところで、雪弥は「あ」と声を上げて足を止めた。

 去り際の蒼慶が、なんだか言葉数もあっさりとして違和感を覚えていたのだが、大人数での立ち話が始まってから、宵月の姿がなくなっていたのだ。

 記憶を辿ってみると、桃宮がアリスを連れて登場した時には、もう存在感はなかった気がする。しばらく立ち尽くしていた雪弥は、もしやと勘繰って、推測を口の中にこぼした。

「……宵月さん、逃げたな……?」
「失礼ですが、わたくしは少し距離を置いて、皆様を見守っていただけです。決して逃げたわけでも、隠れたわけでもございませんので、そこは誤解しませんように」

 抑揚のない声と共に、肩にポンッと手を置かれた。