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妹の緋菜と別れた雪弥は、一階に集っている家族や客人から離れるように階段を上がると、行くあてもなく廊下を歩き出した。昔使っていた部屋へ行くようにして右折したところで、ようやく歩む速度を落として、ふぅっと息を吐く。
あの子、少し苦手なタイプだなぁ……。
綺麗だとか妖精さんだとか、よく分からない。そもそも自分の顔は、美麗な兄や妹と違って平凡なのだけれど、と、そう桃宮家の令嬢アリスを思い返したところで、雪弥は「あ」と声を上げて足を止めた。
去り際の蒼慶が、なんだか言葉数もあっさりとして違和感を覚えていたのだが、大人数での立ち話が始まってから、宵月の姿がなくなっていたのだ。
記憶を辿ってみると、桃宮がアリスを連れて登場した時には、もう存在感はなかった気がする。しばらく立ち尽くしていた雪弥は、もしやと勘繰って、推測を口の中にこぼした。
「……宵月さん、逃げたな……?」
「失礼ですが、わたくしは少し距離を置いて、皆様を見守っていただけです。決して逃げたわけでも、隠れたわけでもございませんので、そこは誤解しませんように」
抑揚のない声と共に、肩にポンッと手を置かれた。
妹の緋菜と別れた雪弥は、一階に集っている家族や客人から離れるように階段を上がると、行くあてもなく廊下を歩き出した。昔使っていた部屋へ行くようにして右折したところで、ようやく歩む速度を落として、ふぅっと息を吐く。
あの子、少し苦手なタイプだなぁ……。
綺麗だとか妖精さんだとか、よく分からない。そもそも自分の顔は、美麗な兄や妹と違って平凡なのだけれど、と、そう桃宮家の令嬢アリスを思い返したところで、雪弥は「あ」と声を上げて足を止めた。
去り際の蒼慶が、なんだか言葉数もあっさりとして違和感を覚えていたのだが、大人数での立ち話が始まってから、宵月の姿がなくなっていたのだ。
記憶を辿ってみると、桃宮がアリスを連れて登場した時には、もう存在感はなかった気がする。しばらく立ち尽くしていた雪弥は、もしやと勘繰って、推測を口の中にこぼした。
「……宵月さん、逃げたな……?」
「失礼ですが、わたくしは少し距離を置いて、皆様を見守っていただけです。決して逃げたわけでも、隠れたわけでもございませんので、そこは誤解しませんように」
抑揚のない声と共に、肩にポンッと手を置かれた。