腰にしがみついていたアリスが、そうだと答えるように何度も頷いた。隠れている緋菜の細い背中から、そろりと顔を覗かせて熱がこもった瞳で雪弥を見上げると、目をそらす事も忘れて、ほうっと夢心地に息をついた。

「雪弥様は、アリスの妖精さんですか……?」

 なんだか、これまでで一番よく分からない問いをされた。

 その瞬間、雪弥は一時的に表情ごと硬直した。しばし逡巡し、そのままの姿勢でゆっくりと妹の緋菜を見やる。
 一体、この子が何を言っているのか分からないんだが、説明してくれないか。そう動揺する兄の視線を受け止めて、緋菜は少し困ったような笑みを浮かべた。

「アリスちゃんって、ちょっと夢見る女の子というか……」

 少しだけ変わっているの、と緋菜が溜息交じりにぽつりと呟いた。雪弥は「うん、そうか」と答えながらも、これからどうすればいいんだ、と問うように妹を見つめ続けていた。

「……綺麗な人」

 熱がこもったアリスの囁きが、兄妹の間に落ちた静けさに広がり、余韻を残すようにして消えていった。