地下のその部屋には、空調の冷気が立ちこめていた。

 手足を動かすたびに、それがあとを追いかけて肌寒い。けれど、張りつめた緊張の空気に加えて、『彼』が異常なほど麻酔の効きが短いために急がされ、データの収集にあたる研究員たちの額や鼻上には、脂汗が浮かんでいる。

 ここは、厚い鉄で覆われた巨大施設の、地上からもっとも低い場所にあると言われている最下層の階の一つだ。室内には、規則的な音を立てる多くの精密機械が置かれている。人の数よりも上回るせいか、どこか伽藍とした印象を与えていた。

 薄暗い室内で、中央に置かれたガラス張りの個室だけが、強い光に照らし出されていた。寝台には一人の青年が横たわっていて、四人の白衣姿の人間が黙々と仕事にあたっている。

「どうだ?」

 ふと、そんな腹に響くような重低音が発せられた。

 声を発したその男は、隔離されたガラス張りの個室の前から、機械的に動く白衣の人間たちを睨みつけるようにして立っていた。歳は五十と少し。浅黒い顔や手に刻みつけられた皺は、軍人らしい威圧感をもって本来の歳を忘れさせる。