カラン、と出入り口のベルが鳴る音が聞こえた。

 その次の瞬間「ねぇ」と声を掛けられ、腕を取られてラビは飛び上がった。ハッとして振り返ると、そこには先程パン屋の店内にいたはずの男が立っていた。

 年齢は三十前後ほどで、顔立ちが良くて落ち着いた雰囲気をしている。ブラックコートと、それにぴったり似合うハット帽という恰好で、人の好さそうな柔和な表情を浮かべていた。

 男が、少し癖の入った柔らかなブラウンの髪が覗くハットのつばを、白い手袋を履いた手で少し持ち上げた。こちらを改めて見下ろしてきた青い瞳は、なんだかホノワ村でよく声をかけてきた少年達のように澄んで見えた。

「こんにちは、何かお探しかな?」

 男性にしては、少し高めの穏やかな声をしていた。片手に金の装飾をされた日除け用の細い傘を提げていたものの、パンを買った様子は見られない。

 腕を取られたまま早速とばかりに質問されて、ラビは戸惑った。初対面にしては馴れ馴れしいなと、その意図を探るように、ノエルが鼻頭に少し皺を刻んで様子を窺う。