しかし、ビアンカは、ジャンプが苦手な猫である。

 勢いよく飛んだのはいいものの、軌道がノエルから大きく外れて、ビアンカがセドリックの後頭部向かってくるのが見えて、ラビは目を丸くした。

 その直後、何事か言いかけたセドリックの後頭部に、飛び込んできたビアンカが直撃していた。お世辞にも軽いとは言えない白猫を、後頭部で受け止めた彼が前のめりになって崩れ落ちた。

 ラビの後ろに回ったノエルが、その様子を見て『あ』と間の抜けた声を上げた。

『…………すまん。なんか大事な話でもしていたところだったか?』
「いや、特にこれといって大事な話はされていないけど……」

 ラビはそう答えながら、廊下に突っ伏したセドリックの頭にしがみついて、茫然としているビアンカへ視線を戻した。

「……えっと、二人とも大丈夫?」

 猫も家族として扱うような、優しい台詞である。

 そう解釈したセドリックは、床に伏したまま「僕は大丈夫ですよ」と諦めたような声で答えた。込み上げる溜息を抑えて、ゆっくり身を起こすと、彼女と母が大事にしている白猫に怪我がないかどうか確かめたのだった。