非常に珍しい色素なのだというのは、両親から聞かされた事はあった。稀にしか生まれなくて、どんなに日差しを浴びても肌が白いというのも特徴だ。薬草師業の顧客である隣町の医者ゲンは、「何かしら色素に関わる病気の可能性もある」と、可能性を口にしていたけれど。

 その時、どっという音と風圧が頬を撫でて、ラビはそちらへと目を向けた。

 ようやく着いたかとばかりに、漆黒の美しい毛並みをぶるりと震わせた黒大狼が、緊張感もなく前足をぐっと伸ばしている。

『王宮ってのは、無駄にデカいな。人を避けて歩くっつう苦労はせずに済みそうだ』

 そう人語を話した黒大狼のノエルが、鋭利な牙を覗かせて欠伸をこぼした。勿論、その姿はラビ以外の人間の眼には映っておらず、声だって聞こえていない。

 ラビは、それを常々不思議に思っていた。何故なら、ノエルは物にも触れられるし、姿が見えていない人にも当たり前のようにぶつかったりするのだ。普通に食事もとれるし、人間以外の生物には彼の姿がハッキリ見えてもいた。