ヒューガノーズ伯爵は、途端にショックを受けたように項垂れた。しかし、彼女の髪を再び整え直し、改めてその顔を見たところで、可愛いなぁと露骨に顔に浮かべて目尻を下げた。

 その様子を見ていた夫人が「あなた……」と呟いて、困ったように微笑んだ。しかし、彼女は気を取り直すように小さく首を振ると「ほら、二人ともいらっしゃい」と声を掛けて、夫の腕に手を絡めて歩き出した。


 伯爵夫妻が部屋へと戻る中、ラビは気になって、親友ノエルの姿がないか廊下の奥へ目を凝らした。
 追加の紅茶とスコーンを持った二人のメイドが、廊下で立ち止まったままのこちらに気付いて入室を促してきたので、すぐに伯爵達の後に続きますから、と伝えるようにぎこちなく愛想笑いを返しておいた。


 恐らく、ノエルはまたしてもビアンカに追いかけられるような失言でもしたのかな……とは推測していた。屋敷内の道順を把握している訳ではないから、そう遠くは離れないだろうけれど。