その時、ラビは自分に向けられている強い視線に気付いた。

 なんだろうか、と思って目を向けると、そこには髪を触る父親の手の動きを、やたら注目しているセドリックがいた。

「セドリック、どうしたの?」
「いえ、なんでもないです…………」

 気のせいか、視線をそらしたセドリックは、なんだかそわそわしているようにも見えた。思い返せば、ヒューガノーズ伯爵に迷惑な大歓迎を受けるたび、この幼馴染は大人しくなっているような――

 あれ、そういえばノエルはどこに行った?

 ラビはセドリックの事も忘れて、辺りを見回し、ビアンカもいなくなっているなと首を捻った。一度髪から手を離したヒューガノーズ伯爵が、これはチャンスだと言わんばかりに「えっほん」と下手くそな咳払いをした。

「それにしても、ラビ? 今日から王都が拠点になるのだろう? 部屋なら沢山あるから、ウチに泊まっていってもいいんだぞ?」
「ううん、費用は騎士団持ちだから平気」

 辺りを窺いながら、ラビは間髪入れずそう答えた。