白猫ビアンカに甲高い声で説教され続けていたノエルが、我慢ならなくなったとばかりに屋敷の奥に向かって廊下を走り出した。その後ろを、長く白い毛並みを揺らせてビアンカが追い駆ける。

 突然飼い猫が興奮した様子で走り出したのを見て、伯爵夫人は目を丸くした。今日は随分元気ねぇと見送った後、薬草師であったオーディン夫妻の一人娘『ラビィ』を幼い頃から、心底可愛がっていた夫のはしゃぎようへと視線を戻して、小さく息を吐いた。

「あなた、ラビが可愛いのは分かりますけれど、少し落ち着いて下さいな」
「小さいところもまた可愛いなぁ! ああ、甘やかしたくてたまらないッ」
「まったく、こちらの話しも聞こえていないのね……。セドリックも、分かると言う顔をしないで、あの人を止めてあげて」

 もう意識が飛ぶと思ったところで、ラビは、気付いたヒューガノーズ伯爵の腕からようやく解放された。ぐしゃぐしゃになった髪を、彼が「済まないね、うっかり」と、全く悪びれもなさそうに言いながら整え直す。