伯爵邸一階にある、扉が開かれた広々とした一室に、ヒューガノーズ夫妻が揃っていた。チラリと見えたテーブルには、装飾の美しい容器にスコーンが盛り付けられており、二人分の珈琲が並んでいた。

 一つの長ソファに夫と仲良く腰かけていた伯爵夫人が、廊下にいるラビ達に気付いて「あら」と目尻に薄い笑い皺を刻んで微笑する。実年齢よりも張りのある頬は血色が良く、キャラメル色の髪も、普段よりもしっかりと結い上げられて髪飾りがされていた。

 ホノワ村にいた時とは違い、外装用としても見劣りしない落ち着いた色合いのドレスに身を包んでいた。襟元を留めるスカーフには宝石のブローチがされ、その膝の上には、ふわふわとした長い毛並みの一匹の白い猫が丸くなっている。

 数年前、ホノワ村で夫人と出会い、家族として愛情たっぷりに育てられている白い雌猫だ。名前はビアンカ。埃アレルギーを持った繊細なお嬢様猫で、ノエルは出会い頭に鼻先を引っ掻かれてから、彼女を苦手としていた。