昔も、ホノワ村の伯爵家の屋敷に慣れない間は、ルーファスや彼が手を引いてくれていたのを覚えている。先程訪れた王宮でも目が回り掛けたので、うっかりどこかへ気を取られて迷子になってしまう可能性を考えると、手を引っ張ってくれる方が有り難かった。

 ラビは優しい幼馴染を見つめ返して、手を差し出した。

「うん、いいよ」

 そう答えた直後、セドリックが素早くこちらの右手を掬い取ってきた。大人になった彼の手はすっかり大きくなってしまっているのに、けれど不思議と、昔よりも握ってくる指先はとても優しく感じた。

 少しだけ、まるで手の形を確認するように握り直された。貴族としての礼儀作法なのか、指先をそっと握りこむように持ち上げると、もう一つの手まで添えて、彼が改めて正面から向かい合ってきてこう言った。

「いつか両親が揃った本邸に、こうしてあなたを招くのをずっと楽しみに待っていたので、とても嬉しいです」

 セドリックが、どこか照れた表情を隠すかのように微笑んで、ふんわりと目元を細めた。そっと手を引かれて歩き出したラビは、相変わらず弟みたいな幼馴染を思って「大袈裟だなぁ」と笑った。