『俺はその遺跡とやらは知らないが、『砂の亡霊』がもし、一瞬前まで生物の気配がなかったにも関わらず突然大量発生する害獣だとしたら、術による仕掛けの可能性も高い』
「術とはなんです?」

 これまで大人しく話を聞いていたユリシスが、声のする方向へ顔を向けて、一同を代表するように間髪入れず質問した。

「というより、姿が見えないと本当に不便ですね。どこが顔なのか分かりません」
『おい、手を伸ばしてくるんじゃねぇよぶっ殺――』
「ここが頭で、ここが耳だよ」

 ラビは親友の頭を撫でて、ふわふわとした大きな耳の左右をそっとつまんで立てて見せた。姿が見えないというのに、存在を認めてくれているようなやりとりが、なんだかとても嬉しい。

 思わずノエルが言葉を切り、室内はしばし沈黙に包まれた。

 普段は起こっているか顰め面のラビに、正面から愛想の良さを向けられたユリシスが、じっくり観察するように僅かに顔を顰めた。隣からその光景を見ていたセドリックが、「なんって可愛――」と言い掛けて、素早く自分の口を手で塞ぐ。