だって、彼は生きてそこに居るんだもの。
 お願いだから、オレみたいに無視して存在を拒んでしまわないで、と思った。


 自分以外の人に彼の姿が見えるようになったら、ノエルが人語を離せる事は隠しつつも、外を堂々と一緒に歩いて、何かを共に分け合って食べたる事も堂々と出来て、そして触れ合えたりもするのだろう。

 もしかしたら、伯爵夫人のように「大きなワンちゃんね」と笑いかける人や、騎士団の男たちのように友好的に受け入れて接してくれる人もいるかもしれない。そう考えるとわくわくして、ラビは思わず、親友であるノエルの背を小さく叩いて合図を送っていた。

 ラビから好奇心たっぷりの気配を感じ取っていたノエルは、『分かってる』と柔かい声で答えた。それから顔をくいっと上げると、ルーファスに挑発するような笑みを向けてこう言った。

『いいぜ、話とやらを聞かせろよ。俺としても、ラビが好き勝手にバカにされるのを見て我慢出来るか分からねぇし、そん時は相手のクソ人間に『番犬』らしく威嚇してやるのも面白そうだ。内容次第によっては、試してみる価値があるかもしれねぇ』

 だからまずは、依頼内容を聞く。

 そんなノエルの返答と、ラビやセドリックやユリシスも注目して話を待っている様子を見やり、ルーファスは、予定に狂いはないと言うような含んだ微笑を深めた。

「よろしい。それでは今回の『本題の話』をしようか」

 長椅子をギィッと鳴らしたルーファスが、椅子に浅く座り直して、書斎机の上で手を組んだ。