明らかに貴族出身と思わせる美しい指先と、洗練された品ある仕草を持った、二十代中頃のこれまた絶世の美貌を持った青年だ。やや長い栗色の髪に、薄い水色の鋭い眼差しは、ニコリともしない美貌もあって冷やかに見える。

 ラビは、初対面時から、自分を常々チビだの品がないだの言って馬鹿にしたユリシスを睨みつけた。彼とはとことん馬が合わないし、再会した際にも「やはり小さいですね」と言われて、いつかぶっ飛ばしてやると改めて心に決めたところだ。

 とはいえ、親友の存在を思い出されたラビは、少しだけ怒りを鎮めた。こうして苛立ちを我慢して馬車に揺られているのも、彼に「旅行みたいで楽しいんじゃね?」「騎士団から金が出るんだし、王都で美味いもんでも食おうぜ」と宥められたからである。

 ラビには、昔から他の人には見えない親友がいた。

 名前はノエル――彼は、人の言葉を話す黒大狼である。幼い頃に出会ってから、ずっと一緒に過ごしていた。