それは、ザイアース遺跡の地下で出会った、妖獣のトーリだった。彼がこちらに気付いて、大きな金緑の瞳を向けてすぐ『よっ』と片手を上げてきた。

『俺のところを担当していた妖獣師がさ、もし呼び出された後にでも外に行きたくなったら使ってくれって、こっそり出入り口を固定する術を仕掛けていったんだ。俺、あんたのこと気に入ったし、試しにやってみたら上手く行ったから、今日からちょいちょい顔を見に来る事にしたぜ。よろしくな!』

 そう言ったトーリが、腰に手をあてて誇らしげに胸を張った。神殿でも雑用係りをやった経験があったので、ついでに部屋も掃除しておいた、と自信たっぷりに告げてくる。

 褒めてくれても全然構わない。それから、自分は紅茶が大好きなので今すぐ飲みたいのだが、この部屋にはないのか、と自由猫っぷりを発揮して次々に言ってくるトーリを見て、ノエルが煩そうに前足で顔を押さえた。

『また猫かよ。これ、そのまま居座るんじゃねぇだろうな……』
『何度も言っているがッ、俺は猫じゃねぇよ! ボコボコにしてやっから表に出ろ犬野郎め!』

 途端にトーリが毛を逆立てて吠え、犬呼ばわりされたノエルが『俺は犬じゃねぇ狼だ!』と吠え返して、二匹の口喧嘩が始まった。