「……ノエル、頼みますから、団長を驚かしたりしないようにお願いします」

 心配しきった口調で確認されたノエルが、俺は何も言っていないだろ、と伝えるかのように機嫌良く尻尾で応えた。

 ラビは、セドリックが当たり前のように、親友と接する様子を見つめていた。ふと、初めて王都入りをした先日に、幼馴染である彼の実家のヒューガノーズ伯爵邸を訪問した事が脳裏を過ぎって、「あ」と声を上げた。

 彼の父親であるヒューガノーズ伯爵は、抱き締め癖でもあるみたいに毎回、失神しそうなくらいぎゅっとしてくるし、やたら膝の上に乗せて座らせたがった。

 もう子供じゃないのに、そうしたがるのはおかしいよ、とラビは何度も指摘していた。しかし、そのたび『息子のセドリックも自分と同意見であるはずだから、訊いてみるといいよ』と、彼は自信たっぷりに答えてきて、やめていなかった。

 だから、その件に関しては、いつか本人に確認してみようと思っていたのだ。それを調査任務に出掛ける前に思い出していたはずなのに、その際もヒューガノーズ伯爵に抱き潰されそうになって、うっかり頭から抜けてしまっていたのである。