セドリックは、隙なく次々に蛇を切り捨てながらも、落ち着いた表情の下で焦燥と苛立ちが増していた。

 今すぐにでも、はぐれてしまったラビの安否を確認するために行動を起こしたいのに、蛇が邪魔だ。それだというのに、状況は一向に変わらず、こちら側の安全スペースへの侵攻を阻止し続けているので、ようやくの状況が歯がゆい。

「ヴァン。テトに持たせてある荷物の中に、爆薬はなかったか」
「副団長、勘弁してください。そんな物騒なものは持って来てません」

 体力底なしのヴァンが、長期戦に不利なユリシスをサポートしつつ真顔でそう答えた。「俺は煙草が吸いたいです」と呟いた彼の向こうで、サーバルが「気を引き締めろよバカッ」と、余裕のない状況下のせいで、相棒へ珍しく暴言を吐いた。


 その時、蛇達がタイミングでも計るかのように、ピタリと不自然に止まって攻撃をやめた。機敏な動きで、一斉に数歩先の距離まで離れていく。


 セドリック達は剣を構えたまま、ベック達は瓦礫を投じようとした姿勢のまま「なんだ?」と、その不自然な蛇の行動を目に留めた。蛇達は警戒するように顔を向けながらも、こちらから一定の距離をたもって、飛びかかる気配は見せないでいる。

 乱闘騒ぎのような攻防が途絶えて、蠢く蛇の音だけがひそひそと続いていた。

 その静かな音に耳を済ませていた一同は、ずるり、と広間の奥の影から重々しい音が聞こえてハッとした。途端に嫌な予感を覚えて、背筋がすぅっと冷える。

 まさか、と顔を引き攣らせながら、彼らはゆっくりとそちらに目を向けた。