『そうか? 正式名の一部分だから、短い方だが。まぁこっちで付けられる名前とは、少々事情が違って、そのまま呼ぶ事もないからな。呼び名として使うなら『トーリ』になる』

 どこでどうやったら、トーリ、というあっさりとした名前に短縮されるのだろうか。

 ラビは、法則性がちょっと分からないな、とは思った。けれど頭に入れた呪文みたいな名前が消えてしまわないうちに、暗号のような記号が刻まれた壁へと向き直って、そこを五回ノックして口を開いた。

「トーニャリンドン・タイガベルツリー」

 初めて声に出してみたその奇妙な名前は、不思議と馴染むようにして、すらすらと口から出てくれた。

 すると、記号のようなものが彫られた壁が、まるで鼓動するように強弱を付けて青白く光り始めた。びっくりして手を離したら、ノエルが隣から『心配すんな』と吐息混じりに言った。

『向こうから、反応が返ってきているだけだ。人間でいうところの、玄関をノックしたら鍵が外れて、その後に扉を開けて当人が出てくる、ってやつだな』
「そうなんだ……、なら『出てくるから待ってて』みたいな解釈でいいのかな?」