しかし、こうして歩いている地下の探索も、第三騎士団の専属獣師として調査に来ている、という意識は、常に持って行動しているつもりだった。

『仕方ねぇ。分かったよ、その妖獣にまずは話を聞いてみよう』

 顔を押さえていたノエルが、深い溜息を吐いて、ようやく前足を下ろして顔を上げた。壁に向き直ると、そこに刻まれた記号を目で辿り、こちらを振り返った。

『これは、人間だったら誰でも反応するタイプのものだ。ノックを五回して、ここに書かれている名前を復唱すれば、発動する術になっている』
「これって文字なんだね。なんて書かれているの?」
『トーニャリンドン・タイガベルツリー』

 間髪入れず、ノエルが真面目な顔でキッパリそう言ってきた。

 ラビは、教えられたその言葉を聞いて、数秒ほど固まってしまっていた。どうにか頭の中で、その名前を繰り返して記憶に叩きこむ。

「……あのさ、ノエル? なんか聞き慣れない名前というか、発音の組み合わせが変というか、どっちも長いような気がするんだけど」