「ここまで静かなのは、オレ初めてかも。それに、空気がすごく澄みすぎてる感じもする」
『その感覚は間違ってないぜ。来るまで確信はなかったが、ここは『聖域』だな、空気は一切の穢れも含んでない。おかげで森の中にある遺跡が、元は神殿の役割を果たしていた場所である可能性が、ぐんと高くなった』

 その時、カサリと地面の草を踏む足音が聞こえて、ラビは振り返った。

 そこには、相変わらず無愛想な様子で、美麗な顔を顰めたユリシスがいた。細い眼鏡を掛け直しながら、こちらの足辺りに目を向けてくる。

「声が聞こえますね」
『聞こえるようにしてやってんだよ』

 ノエルが、呻るようにして言い返した。

 親友の声が誰かに聞こえている。姿は見えていないのに、存在を受け入れられている様子は、やはり新鮮で、ラビはこっそり目に留めていた。しかし、ふと、こちらを見た彼が沈黙し、ついでのようにユリシスまでじっと見下ろしてきた。

 数秒ほど黙っていたノエルが、ゆっくりと口を開いた。