額の左右を挟みこむように揉み解していたジンが、ふと思い出したようにこちらを見て「そういや、そこに『狼』はいんのか?」と尋ねてきた。ラビは、カウンター側をチラリと見て、そこに誰もいないことを確認してから「うん」と頷いた。

「オレの隣にいるよ」
「この宿、朝一番は厨房を稼働していないらしくてさ。馬車に向かいながら食うことになるんだが、サンドイッチとかでも平気か?」
「ノエルはサンドイッチも好んで食べてるよ」

 ジンは、話すのも頭痛を誘発して辛い、という顔でゆっくりと顎を引いて「ならいい」と納得した。目頭の上を掌で解しにかかりながら、ふと「犬とか狼って、パンとか野菜とか、食うもんだったけ……?」と遅れて独り言を口にする。

 足元に視線を向けてくるテトに、ラビは続いて尋ねた。

「そっちが一番のり?」
「いんや? 一番乗りは副団長だな。ヴァン先輩とサーバル先輩は、ユリシス様と一旦外に出た」

 そう言いながら、彼がカウンター席の奥へと指を向けた。

 そこには、組んだ手を額にあてているセドリックの姿があった。あまりにもひっそりと腰かけているため、ラビとノエルは気付くのに遅れた。