「これ、ビールジョッキですね」
「なんだか話が噛み合ってないんだけど……お前、オレが言ってる内容、理解出来てる? 自分の部屋で寝なきゃ駄目だよ」

 もう夜も遅い時間だよ、とラビは説得するように告げた。

 すると、ようやくセドリックが遅れて察したように、「ああ、そうなんですか」と柔らかく笑んで答えた。そうしていると普段の彼のままである。

 これから自分が取るべき行動も理解しているのか、彼がゆっくりと立ち上がった。なんだ分かってくれたのかとラビは安堵して、隣に待機していたノエルも小さく息をついて『やれやれ』と言葉を続けた。

『少し寝た効果があったみたいだな』
「うん、会話はちょっと怪しいけど、ひとまず問題解決だね」
『まぁちゃんと歩けそうでもあるしな。気になるのは、向こうの階段をちゃんと上がれるかって事くらいか』

 ノエルが鼻先を動かせて促し、ラビはそちらへ視線を向けた。

 そこには段差の高さがあまりない、幅が広く作られている木材質の階段があった。壁の頭の高さに、目に優しい程度の電灯がポツリポツリと灯っていて、足元は少し薄暗い印象だ。