同情させたくないし、心配だってされたくない。あの頃よりも強く逞しくなったはずで、言われ慣れた文句や拒絶であれば、いつもの喧嘩っ早い自分のままに返す事が出来るのに、どうしてか優しさの前では自分が弱くなってしまうのを感じる。

 ラビは空気を変えるように、込み上げる感情を抑えて、いつも通りの自分を意識してセドリックの方を指差した。

「もしかして、あいつの事で何か? ここに入る前に連れの一人に面倒を頼まれたんですけど、まさか眠っちゃっているとは思わなかったんで。いつ寝たのかなと思って」

 話題を変えるようにそう告げると、話が早いとばかりに男が「そうなんだよ」と吐息混じりに言った。

「さっきまで起きていたんだが、隣にいた最後の一人が出たあと、緊張の糸が切れたみたいに眠ってしまってね。うちの食堂は宿泊客向けで、一旦閉めてフロアを消灯するんだ。部屋の鍵は開けてくるから、起こして連れていってもらえないか?」

 これから片付け作業のため、まずは奥の厨房側の掃除に取りかかる予定であるというその男に、ラビは任せて下さいと頷き返して、セドリックのもとへ向かった。