続いては、世話がかかる幼馴染をどうにかしなければならない。そう考えて視線をそらそうとしたラビは、ふと、カウンター内にいる男の何か言いたそうな表情に気付いた。
 中年男の目が、迷うようにセドリックの方へ向けられたかと思うと、すぐこちらに戻ってくる。どうやら、セドリックに関わる何かを伝えたいらしい。

 ノエルが『どうする?』と訊いてきたので、ラビは話し掛けてみるよと応えるように、背中の後ろに手を回して合図した。

「こんばんは。お料理、本当に美味しかったです。オレに何か用ですか?」

 ぎこちない愛想笑いを浮かべて、控えめに声を掛けてみると、男が少し拍子抜けしたような顔で「こんばんは」と返して、まじまじと見つめてきた。

 もしや不快にさせたのかと思って、ラビは出来るだけ目の色がハッキリしないよう、帽子の唾をつまんでギリギリまで下げた。すると、それを見た男が唐突に「すまない」と謝った。

 どうして謝られたのか分からなくて、ラビは首を傾げた。一度視線を逃がした彼が、申し訳なさそうに「気分を悪くさせたのならゴメンよ、坊や」と小さな声で言った。