カウンター内に入っている男は少年の父親で、宿をみている店主であるのかもしれない。そう推測しながら歩み寄ってみると、目尻に薄い皺があるたくましい身体をしたその中年男が、戸惑いがちにカウンターにメニュー表を置いた。

 手渡しではない事は予想済みだった。ラビは、それを手に取りながら「ありがとう」と言って、適当に上から五番目の定食メニューを伝えた。どれも聞き慣れない料理名だったが、相手が嫌に思うかもしれない可能性を考えると、尋ねてみるという選択は浮かばなかった。

 奥の席に座ったまま眠るセドリック一人を残し、他の客はいなくなってしまった。ラビはカウンター席の中央の椅子に腰かけて、料理を待ちながら、ビールジョッキを握り締めたまま俯いている幼馴染を眺めた。

 店主らしきその男が、こちらに背を向けて料理を始めたタイミングで、ラビは近くに腰を降ろしたノエルに尋ねた。

「…………あいつが煙草を吸いに外に出たのって、どのくらい前なんだろう?」