ラビはそんな彼らを振り返り、阿呆なんじゃなかろうか、という顔をして眉を寄せた。

「そりゃ、ノエルが尻尾で打ったんだから、当然だろ?」
「露骨に阿呆を見る目を寄越すのはおよしなさい。飼い主としては先に謝るか、犬を嗜めるのが先でしょうに」
『ペットじゃねぇよ。真っ先にご自慢の顔面から噛み殺すぞ、眼鏡野郎』
「つまり僕らも、今の状態でも触れるという事ですよね?」
『おいコラ、真顔で何言ってんだ伯爵家の次男坊。触らせねぇからなッ』

 辺りを探す素振りを見せたセドリックを前に、ノエルが顔を引き攣らせて飛び退いた。勢いよく動いたため、それは窓も閉め切られた廊下に突風のような強い風を起こし、三人の髪と服をはためかせた。

 思わず身動きが取れなくなった男達の向かいで、ラビがきょとんとした様子で、自分の背中に回ったノエルを見つめた。


「…………」


 しばし、それぞれの無言状態が続いた。