遅い時間も関係しているのか、それともこの時間帯は食事というよりも、外の店で楽しむ者が多いのか、食堂内は数組の客だけでひっそりとしていた。カウンター席の内側は狭い厨房スペースになっていて、そこにはビール瓶や樽なども並んでいた。
 入ってすぐ右手には宿泊客向けの小さな窓口が一つあり、ふてくされた顔をした十代前半くらいの一人の少年が座っていた。ラビは、足を踏み入れてすぐに声を掛けられた。

「あんた、名前は?」

 実は最後の一人の客を待ってんだ、と少年はむっつりと言葉を続けた。

「父ちゃんがキッチン入ってる間は、俺が鍵番やんなきゃなんねぇの。――で、あんたは宿泊客か?」

 なるほど、それで不機嫌であるらしいと察して、ラビは名前を告げた。そんな事ならもう少し早めに来れば良かったな、と思いながら部屋の鍵を受け取ると、少年はすぐに窓口のカーテンを締めてしまった。

『多分、寝るんだろうな』
「家族経営みたいだね」

 ラビは、部屋の鍵をポケットにしまいながら、小さな声でノエルに答え返した。