そもそも黄金と見紛う見事な金色の色素は、この国では昔から『悪魔の色』であるとして嫌われていた。

 そこを配慮されたのか、騎士団の規定にはない帽子が特別に支給され、それは今、ラビの膝の上に置かれていた。旅用の砂や風対策の耳あてが付いた、軍仕様のデザインをした特注の丈夫な帽子である。大人が被るとなんだか浮くようなデザインだが、少年ほどの年頃であれば違和感もないものだった。

「ラビィ、機嫌を直して下さい」
「ラビィって言うな」

 ラビは、自分で決めた呼び名である男性名の『ラビ』でなく、本名の女性名の方を口にした幼馴染を、不機嫌そうにジロリと睨み付けた。

 騎士団の広い馬車の向かいの席に腰かけているのは、今年で二十一歳になる第三騎士団の副団長、セドリック・ヒューガノーズだった。伯爵家の次男であり、蒼灰色の癖のない髪と、優しい深い藍色の瞳を持った背丈もある美青年である。