その目立った背の高い建物は、近づいてみると、小さな窓がついた壁の中央に古びれた大きな時計が一つ設置されているのが分かった。時刻は午後の十時で、ホノワ村であれば、全村人が消灯して寝静まっている頃である。

 時計が付いた建物は一軒しかないと教えられていた事もあるけれど、ラビとノエルは建物の入り口が見え始めた時に、それが目的地の建物であると確信した。何故なら、扉のない開かれた一階部分の出入り口に、ローブで身を包んだ見知った男がいたからだ。
 建物の入口脇にある木箱に腰を降ろしていたのは、ヴァンだった。ローブで騎士服が隠れているせいか、ぼんやりと煙草を吹かしている無精鬚の横顔は、騎士というよりは本物の旅人のようにも見えた。
 
「よぉ、チビ獣師。遅かったな」

 こちらに気付いたように振り返った彼が、煙草を持っていない方の手を、軽く上げて彼がそう声をかけてきた。

 ラビは最後の人の波を抜けると、小走りで駆け寄った。どうしてヴァンがこんなところで一人煙草を吸っているのか不思議で、つい尋ねてしまう。