『いせきっていう単語は、たびたび聞くよ。なんか古い時代のものなんだって、じっちゃんも言ってたな』
「みんな逃げ帰ってしまうような場所らしいんだけど、何か知ってる?」
『うーん、いせきって名前の土地については、少しだけなら』

 犬が、思い出すように首を捻りつつ続ける。

『害獣がいるのかは知らないけど、渡り鳥の連中も、そこへは入らないらしいってのは聞いたなぁ。先祖代々の教えだから理由は分からないと思うけど、ちょうど近くにそいつらがきているんだ。それでも良ければ、話を聞きに行くといいよ』

 そう告げると犬は立ち上がり、尻尾についた砂埃を払ってラビを振り返った。

『はじめに教えておくと、他の若い鳥は知っている言葉が少ない。青いネクタイをやってるのが群れのリーダーだから、そいつに話を尋ねるのが良いと思う。一羽だけ少し離れて座っているから、すぐに分かるよ』
「親切にありがとう、『番犬さん』」
『はっはっは、いいって事よ。人間とこうして話せる日がくるとは思わなかったし、俺も楽しかったぜ』

 そう言って、ウインナーが大好きな犬は、軽い足取りで町の方に向けて歩いていった。