でもなんだか、何かが少しだけ足りないような、胸の中に隙間風が吹くようなモノを覚えた。笑って抱き締めてくれた母や、時には茶化すように抱き上げて「高いたかい」とやってくれた父の事が、どうしてか懐かしさと共に思い出された。

「ねぇ、ノエル」
『なんだ、ラビ?』

 何気なく声をかけたら、彼が足を止めてこちらを振り返った。

「ぎゅっとしてもいい?」
『いきなりだな』
「ついでに耳も触りたい」
『マジかよ。要求がぐっと上がったな』

 ラビは答えないまま、腹の高さにある彼の頭をぎゅっとした。ふわふわとした漆黒の毛並みは、肌触りがとても良くて、その下は熱がこもっていてとても暖かい。

 ノエルが小さく息を吐いて、こちらに頭を寄せてきた。

『お前の中で何が起こったのかは知らねぇが、大丈夫だ。寂しいのも、怖いのもない』
「……そんなんじゃないよ。ただ、なんとなく」
『その抱き締め癖、親とそっくりだぜ』