不真面目そうな彼が、実のところ後輩達の面倒見がいいのは知っているものの、気遣うような配慮を見せるのは珍しい。そう感じたセドリックに、真っすぐ見つめられたヴァンは、通りへと視線を戻して癖のある固い頭髪をかいて言葉を続けた。

「厄介な迷信があるもんだと、この歳になってから思いましてね。俺ぁ神様も精霊も奇跡も信じてない男なんで、聖堂の前でだって煙草も酒もやれますけど」
「神職者に怒られそうな台詞だなぁ」

 セドリックが思わず空元気で笑い返すと、彼が建物の壁に背をもたれて、何気ない風で煙草の煙を吐き出した。

「この前、ちょっと不思議に思っちまいましてね。どうしてうちの国は、金髪金目がダメだなんて迷信が蔓延してんのかって」
「聖書に書かれている事も、関係しているのかもしれないな」
「うへぇ、『聖なる教え』が差別って……んなの有りなんすか? 貴族は百パーセント洗礼と教えを受けていて、うちの国じゃ庶民の九割以上は信仰者っすよね?」