「はぁ。今のところ、窃盗の現行犯といったところでしょう。財布が持ち主に戻れば、あとは破損させた店への賠償だけですね。ひとまず町の治安局に預けます」

 そう告げたところで、彼はこれだけは言っておかなければ気が済まない、とばかりにラビを見下ろした。細い眼鏡越しに、薄い水色の瞳を細める。

「それにしても、君は少しくらい大人しくしていられないのですか?」
「ちょっと、それどういうことさ?」

 ラビが間髪入れずユリシスに尋ね返すと、年長者のヴァンが無精髭を撫でながらあっさりとこう言った。

「騒ぎを起こさないように、誰かが見張る方が早いじゃないか?」
「おいコラ。なんでオレが騒ぎを起こしているみたいな感じになってるわけ? 財布を盗られたから取り返しただけじゃんッ」
「それだけにしては、二次被害がやべぇな」

 ヴァンはラビの台詞を聞き流して、煙草に火を付けた。反論し向かってくるラビの頭を、帽子越しに手で押さえ、「はいはい、聞いてるって。ひまず落ち着こうぜ」と子供扱いに慣れたような口調で宥める。