そこには、つい先程見失ったばかりだった三人の男達がいて、細い一本道で御者台で苛々している商人の馬車の前を、ゆっくり横断する老婆を手伝っていた。

 男達は愛想良くへらりと笑っていて、「ほら、もう少しで渡れるぜ婆ちゃん」と声を掛けながら老婆の手を引いている。彼らの手には、買い物袋らしい荷物と杖があった。

「婆ちゃん、ゆっくりでいいから足元に気を付けな」
「全く、こんな時にお孫さんが放っておくとか呆れるぜッ」
「そもそもこんな細い道を走る方が間違ってんだから、迷惑な馬車には杖でも振り上げてやればいいんだよ」

 その光景を目に留めて、ラビとノエルは数秒ほど沈黙してしまった。

「…………あんなのに手間とっていたかと思うと、なんだか馬鹿らしくなってくるんだけど」
『…………まぁ、良かったじゃねぇか。あっさり捕獲出来そうで』

 ノエルは、他になんと言っていいのか分からなくて、素直な尻尾を力なく垂れさせてそう言った。


 無事に道を渡りきった老婆が、玄関先で見送る三人の男達に礼を告げて、アパートメントに入っていった。
 その直後、警戒心皆無の彼らの背後に容赦なくラビが迫り、大きく右足を振り上げた。