比較的に安全なのは、出入りする人間の身元などを確認する制度を持っているような場所だ。ああいった町は、住民ではない旅人や商人や観光者には、やって来た目的を尋ねて記録を取ったうえで入れる。そう考えると、王都や大きな町の方が滞在の心配も少なかった。

 チラリと考えてしまったノエルの隣で、ラビは地上の騒ぎが向かう先を目算していた。頭に浮かんだのは、出来るだけ速く先回りする方法である。

「よしっ、これならイケる!」

 ラビの元気な意気込みが聞こえて、ノエルは目の前のことに思考を戻した。

『おいラビ、無茶だと判断したら俺が出るからな』
「分かってるって、でも大丈夫!」

 そう答えながら屋上の縁(へり)へ向けて走り出し、ラビは「ノエル行こう!」と右手で合図した。
 ノエルは、彼女のこれからの行動を察し『仕方ねぇな』と吐息混じりに言った。けれどその口角は引き上がっており、軽々と駆け出した彼の毛並み豊かな尻尾は、その心情を物語るように大きく揺れていた。