『財布盗られたうえ、一度逃げられて怒り心頭って感じだな』

 頭ごと耳を傾げて、困ったように小さく呟いたノエルは、ざっとあたりに目を走らせた。建物同士の間に出来た細い通路を見付けて、『一旦あっちに行こう』とラビを誘った。

『ごちゃごちゃした通りよりも、高台からの方が騒ぎの場所を特定できる。人目もそんなにねぇから、路地に入ったら俺の背に飛び乗れ。一気に屋上まで移動する」

 ラビは頷き返すと、走り出したノエルに続いて方向転換し、細い通路に飛びこんだ。彼がスピードを調整したタイミングで、呼吸を合わせてその背に飛び乗る。


 瞬間、ノエルが太く大きな四肢で地面を踏み締め、一気に跳躍した。振り落とされないように、ラビは彼の首にしっかりしがみついていた。

 空の青さが、その一瞬後に眼前に広けた。
 ほんの僅かな浮遊感の直後、ノエルが、ふわりと建物の屋上へ降り立つ。


 どちらが声を掛ける訳でもなく、ラビは飛び乗った時と同じように彼の背から降りた。ノエルが耳を立てて鼻先を動かす。