気付くとラビは、すっかり彼らの姿を見失っていた。逃走する彼らの不審さよりも、人々はこちらの金色の目と髪に強く反応して、奴らがどの方向へ走り去ったのか足取りのヒントにならないのが忌々しい。

「あの野郎共どこ行った!?」
『まぁ落ち着けよ。そんな遠くには行っていないはずだ、ちょっと待ってろ』

 勢いに任せて闇雲に走り回ろうとする気配を察し、ノエルはそう呼び止めてピンと耳を立てた。凛々しい顔を左右へ向け、優雅な毛並みを持った漆黒の尻尾も小さく揺れる。
 彼のふさふさとした尻尾の動きを見て、ラビは、ちょっとだけ冷静になった――

『あ~……あいつら、盗れるぶんだけ財布をスルつもりらしいな。こっちから少し離れたところでまた騒ぎが起こってる。今も移動中だ』
「根性叩き直してやる!」

 彼女の怒りは、二割増でぶり返した。

 野郎ナメやがって……とラビは低く呟いた。殺気立つその台詞は、もはや女の子のものではない。