余程人混みでまける自信でもあったのか、パチリと絡んだ男たちのブラウンの目が見開かれて、逃げる足が必死さを帯びた。

 同じように、唐突の怒声に驚いてこちらを振り返った人々が、双眼の金色に気付いてすぐギョッとして道を開けていった。おかげでラビとノエルは、人混みをかき分けるという苦労もなく駆けることが出来た。

『こういう都合のいい時もあるんだな』
「めちゃくちゃ腹が立つけど、この時ばかりは都合いいなとか思ったよチクショー!」

 怒りに任せて、ラビは一呼吸で言ってのけた。

 男達は大通りから、建物が日差しを遮るように並ぶ路地に入った。建物の間にはロープが張られていて、多くの洗濯物が風で揺れている。そこにもまた市場のようにテント店が並び、人の密集地帯が出来上がっていた。

 路地はいくえにも分岐して入り組んでいた。人の多い似たような風景と、迷路のように細い通りを右に左にと追い駆けているうちに、方向感覚も狂った。